文化 ·2025年09月12日

ポルトガル産コルクの歴史と伝統

夏の陽射しを受けて輝くポルトガルの大地。
厚い樹皮の香りが漂い、コルク樫の森には何百年も続く歴史が息づいています。
ここでは、変わらぬ方法で木とともに生きる人々の物語が、今も静かに受け継がれています。

ポルトガルは、世界のコルク生産量の約半分を担う国。
温暖な気候と肥沃な土壌が、ゆるやかにコルク樫を育てます。
この森は、自然環境を守るだけでなく、国の文化や産業の基盤として長く人々を支えてきました。

一本のコルク樫は樹齢200年以上生きるといわれ、9年ごとに繰り返し収穫が可能です。
伐採することなく再生を続ける ― そんな特別な森の存在が、ポルトガルを世界の中心産地にしています。

収穫が始まるのは樹齢25年以上の木から。
「コルケイロ」と呼ばれる職人は、刃物一本で幹に切り込みを入れ、厚い樹皮をゆっくりと剥ぎ取ります。
木を傷つけず、自然の力を尊重するためには、長い年月で培われた経験と感覚が欠かせません。

この技術は代々受け継がれ、森と人の暮らしをつなぐ知恵として根付いてきました。
収穫の音と森の静けさが重なり合うその瞬間は、文化と自然が調和する時間でもあります。

コルクの魅力は、その用途の広さにあります。
ワインの栓だけでなく、建築資材や家具、インテリア、ヨガマットや小物にまで活用されています。
軽くて丈夫、水に強い特性は、古くから人々の暮らしを支えてきました。

森は地域の経済を守り、人々は森を大切にする。
その循環が、コルクを単なる素材ではなく「文化」として根付かせてきたのです。

ポルトガルのコルクは、自然と人の歴史が重なり合って生まれた文化そのもの。
何度も再生を繰り返し、森を守りながら人々の暮らしを支えています。
その物語は今も静かに息づき、未来へと受け継がれていくのです。