コルク樫の森を守る仕組み

コルクが「森を守る素材」と呼ばれるのは、単なるキャッチコピーではありません。その背景には、ヨーロッパの環境政策や伝統的林業技術が融合した、独自のサステナブルシステムがあります。ポルトガルでは国土の約30%が森林で、そのうち7%をコルク樫の森「モンタード」が占めています。ここでは、木を伐らずに“生きたまま”資源を得る、世界でも稀な自然利用の仕組みが続いています。
🍃 木を伐らない収穫
コルク樫は、25年以上経つと初めて樹皮の採取が許されます。剥ぎ取るのは幹の外皮のみで、内部の形成層を傷つけないよう、熟練した職人「コルケイロ」が専用の斧を用いて行います。収穫後、木は約9年かけて再び樹皮を再生。このサイクルを繰り返すことで、1本の木から150〜200年にわたり17回以上の収穫が可能になります。木を伐採せずに資源を得られるため、森林破壊を伴わず、むしろ木の寿命を延ばすことにつながります。
🌿 森の生態系と共生する
モンタードは単なる生産の場ではなく、多様な生命が共存する生態系そのものです。絶滅危惧種のイベリアオオヤマネコやクロコウノトリ、フクロウ、野生のイノシシなど、数百種におよぶ動植物がこの森に依存しています。放牧や伝統農業が共に行われる「アグロフォレストリー(森林農業)」の形態で、コルク樫は日陰を作り、土壌を保ち、地域の水循環を支えています。人間の営みと自然が矛盾せずに共栄する、極めて稀なバランスが維持されています。
☀️ CO₂吸収と気候変動への貢献
樹皮を剥いだ後のコルク樫は、再生のために通常の3〜5倍もの二酸化炭素を吸収します。ポルトガルのコルク樫の森全体では、年間約1,000万トン以上のCO₂を固定しているとされ、ヨーロッパ最大級のカーボンシンク(炭素吸収源)として機能しています。また、再生可能で生分解性を持つコルク製品を選ぶことは、プラスチックや合成皮革への依存を減らす選択でもあります。
🌎 文化と経済の循環
コルクの収穫は機械化が難しく、すべて手作業で行われます。そのためコルケイロの技能は地域社会の誇りであり、伝統工芸と同様に世代を超えて継承されています。ポルトガルでは約10万人がコルク産業に従事し、輸出額は年間10億ユーロ以上。自然環境を損なわずに経済を支えるモデルとして、EUの環境政策の成功例にも挙げられています。コルクを選ぶという行為は、森と人と経済をつなぐ“静かな支援”でもあるのです。
コルク樫の森は「伐らない林業」という、未来への希望を体現しています。人の手で守られながら再生し続ける森。その恵みが、私たちの暮らしの中で自然な美しさとぬくもりとして息づいています。コルクを手に取ることは、遠いポルトガルの森に小さな光をともすことでもあります。